ぐでぺんLIFE

歯列矯正、旅の思い出からお買い物のコツまで日常の備忘録

盗撮の現場に遭遇した話

 

 

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私はいつものように朝の通勤で、電車に乗って座って本を読んでいた。

すると突然目の前の本に、スマホの画面が滑り込んできた。

 

隣の男から盗撮されている、助けてください

 

本から視線を上げると、泣き出しそうな女子高生とその後ろの男性。

見たところ学生の若い男性はドアにもたれてしゃがみこみ、

本を読んでいるようだった。

そして、その本の開かれたページにはスマホが乗っていた。

画面を伏せて。

 

おかしい。

スマホをいじりたいなら、画面が自分の方に向かなければならない。

でもそうではない。

座席はちらほら空いているのに、なぜドアの前にしゃがみ込む?

手に持つ本にはスマホの画面が伏せてあり、手前側にあるのはカメラのレンズ。

立って手すりに捕まる女子高生と、

後ろでしゃがんでドアにもたれる若い男性、本、伏せられたスマホ、こちらを向くレンズ、位置関係。

 

女子高生と目があった。

今にも泣きだしそうだった。

 

どうしよう。

どうしたら良いのかわからない。

  

彼女の勘違い?

そうでもなさそう。

決定的な証拠がない。私の脳裏に冤罪という単語がよぎった。

私は当時スマホを持っていなかった上にガラケーも充電切れ。

録画して証拠を押さえることすらできなかった。

でもなんとかしないとという思いの方が強かった。

 

「あ、久しぶり。元気にしてる?」

私の口から出たのはそんな言葉だった。

もちろん彼女とは初対面。

ちょうど2人がけの隣席が空いていたので、そこに座らせた。

 彼女はスマホで文字を打ち、私に状況を伝えてきた。

怖くて声が出ないだろう、当然だ。

スマホで文字にして私に助けを求めるのも相当に勇気が要ったはずだ。

 

私は周囲に聞こえる声で適当に世間話をしながら、

時折小声になり「次の駅で降りれる?駅員さん呼ぼう」と彼女に問いかけた。

彼女のスマホには震える手で「はい」の文字が打たれた。

 

正直、緊張した。初めての事態でどうすべきかわからない。

「自分の安全を確保しつつ、最重要は彼女の安心」と瞬時に思ったのは確か。

通常の声で世間話をしつつ頭をフル回転させて、小声で彼女にして欲しいことを伝えた。

「次の駅に着いたら、駅員さんを呼んできて。」

彼女に呼ばせるのは心苦しい。

説明をすることで思い出させたくないし、1秒でも早く安全を確保して欲しかった。

でも人手がない。

他の人の手を借りる?

もう電車のスピードが落ちていて、すぐ駅に到着する。

今から状況を説明してる時間はない。通勤時間帯だからその誰かが手助けしてくれる保証はない。

 

何より2人がけの席だから、説明のために私が移動できない。

だめだ、詰んだ。

震える彼女に動いてもらうしかなかった。

 

この時私が気にしていたのは、男性を取り逃がすことだった。

私たちが乗っていたのは急行電車で、男性が乗ったままだと確保できない。

もう止まりそうだけどまだドアにもたれているから、一旦は私でも降ろせるだろう。

大学生っぽいし、この路線に乗る大学なら次の駅で普通電車に乗り換えのはず。

問題はその後。

出発間際に急行電車に再度滑り込まれたらそこでおしまい。

 

 

どうすればいい?

私は男性を見張りつつ考えを張り巡らせた。

 

その心配は杞憂だった。

男性は次の駅で降りた。私は彼の近くで立ちつつ見張っていた。

急行電車に滑り込まれるかと思ったがそうはならず、男性は次の電車の乗り換え待ちの列に並びつつ本を読んでいるふりをした。

本にはスマートフォン。画面はこちら側。

私にはよく見えなかったが、何か操作をしている。

 

------感づかれたか!

 

私が男性を確保しようかとも考えたが、恐怖で体が動かなかった。

今ここで男性を取り押さえられる?

体格差はあまりないが、相手は若い男性、筋力差はあるはずだ。

今ここで暴れられたら?確実に負けるだろう。

その拍子にホームに落とされたら?

もうすぐ次の電車が来る。

 

彼女と駅員さんが視界に入って、その瞬間私がホッとしたのは確かだった。

私が駅員さんに状況を説明した。

が、駅員さんから「自分たちには逮捕権がないから、もし冤罪で訴えられたらとの観点から強制はできないし、スマートフォンの中を見る権限もない」と返答がきた。

後から考えれば当たり前だけど、突き放された気分だった。

それでもと駅員さんにお願いし、駅員さんさんから男性に声をかけてもらった。

男性はおとなしく駅員さんについていき、駅務室に入っていった。

 

駅員さんから、この後どうするかを聞かれた。

駅から警察を呼ぶことはできない。被害者からの希望で代理で警察を呼ぶ立場だと言った。

要するに男性を警察に突き出すかどうかは、彼女が決めることだという。

私は彼女に「警察、呼ぶ?」と尋ね、彼女は頷いた。

私は駅員さんに「お願いします」と伝えた。

 

ひとまず状況は落ち着いたものの、警察が来るまで彼女をどうするのか。

駅員さんは駅務室に…と言ったが、彼女の顔は青かった。

「同じ部屋?」

駅務室には男性が入っている。

彼女も駅務室に入るということは、駅員さんがいるとはいえ被害者と加害者が近い距離で同席するということ。

ここは小さな駅で駅員さんは少ない。この状況に割けるのは1人か2人だろう。

彼女はまだ震えていて、私が彼女をそんな状況に置きたくなかった。

 

結局警察が来るまで彼女は私が預かることにした。

思い出したように学校…!と言うので、自分で学校に電話できるか聞き、彼女のスマホから私が電話で事情を説明した。

先生は一応理解してくれたようで、終わったら出校するように伝えてくれとのことだった。

 

駅前にはイートインスペースがあるパン屋さんがあり、そこに居るので警察が来たら駅員さんに私たちを呼んでもらうことにした。

彼女に朝ごはんは食べた?おなかは空いていない?と何か食べるか聞いたけれど、

遠慮しているのか、私にはよくわからなかった。

私はレジで一番高い限定のパイナップルジュースを頼んで、彼女に「何にする?奢るから遠慮しないで!」と伝えた。

返事がなかったので「同じのでいい?」と聞くと彼女は頷いた。

私はパイナップルジュースを2つ持ってイートインスペースに向かった。

 

席に座り彼女にジュースを渡して、私もジュースを飲んだ。

甘酸っぱくて爽やかな初夏の味がした。

すると突然彼女が泣き出してしまった。

!!!

泣きじゃくる声で「助けてくれて、ありがとうございます。」と彼女は言った。

聞けば、彼女はここから近い高校に通っていていつも同じ電車に乗るそう。

あの男性に盗撮されたのもおそらくは初めてでないようで、

自分の勘違いかもしれない、何度か立ち位置を変えたり乗る車両を変えたりしたが、

何日かするとあの男性は姿を現す。

怖かった、怖くて声も出なくて、どうしていいのかわからなくて固まるしかできなかった。

助けてくれるかもわからないが、スマホのメモ帳にメッセージを打って、助けを求めるのが精一杯だった。と語ってくれた。

その後、学校のことや進路のことなど今回の件にはあまり触れない当たり障りのないことを話してくれた。

 

駅員さんが呼びに来た。

事情聴取をするらしく、彼女にこれから警察にこれるか聞いていた。

私もついていこうか尋ねると、彼女は一人で行くと言ったので、

警察官に彼女をお願いした。

警察は私の名前と勤務先、電話番号を聞き、その後どうなったか連絡が欲しいかと聞いた。

私はお願いしますと言うと、それではとその場を離れていった。

この間約1時間。

とても長く感じた。

職場に連絡を入れ、私は出勤した。

 

出社すると誰かから聞いていたのか、課長が大変だったらしいが大丈夫かと声をかけてきた。

必要なら勤務時間中でも事情聴取に行ってよいとのことだった。

 

お昼前には警察から、男性が盗撮を認めたことと事情聴取の必要があれば連絡するので協力して欲しいと電話があった。

 

とりあえず盗撮犯を捕まえはした。

自分の行動は間違っていたとは思わないが、

あの時どうするのが正解だったのかは、未だにによくわからない。

 

・男性が盗撮を認めたから結果良かったけど、女子高生の勘違いだったら

・通常の声で世間話をして、途中で小声で女子高生に降りれるか聞いたりしたが、それは良かったのか?もっとうまいやり方があった?

・被害者に駅員さんを呼ばせに行ったのは良かった?無理してでもその駅で降りるかもわからない他の人に頼むべきだった?

・私が男性をもっと早く抑えていたら、写真は消されていなかった?

・警察を待つ間、パン屋さんに入ったのは良かった?

・私にこれ以上になにかできることはあった?

 

たまたま上手く行っただけ、男性が急行に滑り込まなかっただけ、逃げなかっただけ、

逆上しなかっただけ、 ホームに突き落とされなかっただけ。

ただそれだけ。すれすれのところで全部回避できただけ。

結果それだけのことだった。

 

あの時の女子高生は、今どうしているのだろう。

私の行動を彼女がどう思っていたのだろう。

あの時の私の行動は正解だったのか、どうすべきだったのか。

その答えが私は欲しい。